大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和28年(行)10号 判決

原告(二六名選定当事者) 初田伝次

被告 兵庫県知事

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

訴状によれば原告の請求の趣旨は、

「兵庫県明美地方事務所長岡崎元次が、昭和二十七年八月十五日別紙記載の二十六名に対して課した昭和二十七年度事業税賦課処分並にこれに対する右二十六名の再調査請求棄却処分は何れも無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決を求めるに在り、その請求の原因の要旨は、

「兵庫県明美地方事務所長岡崎元次は、昭和二十七年八月十五日別紙記載の二十六名(以下単に二十六名と称する)に対して、昭和二十七年度事業税を賦課する旨夫々徴税令書を交付してきた。ところで、右事務所長が令書を発するに当つては、二十六名が各々先に提出した昭和二十七年度事業税申告書を基本とすることなく、同人等の昭和二十六年度所得税額算定の基準とされた同年度総所得額を機械的にその基本として、漫然とこれを昭和二十六年度に於ける二十六名の各事業所得と認定した上課税したものである。しかしながら、事業税は国税たる所得税の附加税ではなくして、全く別個独立した地方税であり、その課税方法も所得税の賦課とは別異独立の調査に基いてなさるべきものである。されば、これを無視した前記賦課処分は明らかに憲法の定めた地方自治制度を破壊するもので、且つは地方税法に違反する。二十六名は、かゝる賦課処分を受けたので、叙上地方事務所長に対し夫々再調査の請求をしたが、これまた一回の調査もなく棄却処分に付された。よつて、本件賦課処分並に再調査請求棄却処分には、何れも重大明白なる瑕疵があるから、その無効の確認を求めるため本訴に及んだ。」

と云うに在る。

しかして、原告が訴状に貼用した印紙額は金三百十円であるが、これは、原告の提出した昭和二十八年十月二十日附並に昭和二十九年四月九日附各準備書面に基くと、本件訴が、二十六名について被告の認定した所得金額並に賦課税金額の大小適否自体を争うものではなく(或は上記被告の認定金額等が正当であると仮定しても良い)、前記のように、その認定賦課の過程乃至手続に瑕疵のある賦課処分自体及び再調査請求棄却処分自体の無効確認を求めているのであるから、訴訟物の価額は算定すること能はざる場合に属し、従つて、民事訴訟用印紙法第三条第一項により、本件訴訟物の価額を金三万一千円とみなして、相当印紙を貼用すれば足りるとの見解に因るのである。

当裁判所は原告に対し、訴訟物の価額を金四十八万五千六百十円として、これに応ずる印紙を命令書送達の日から二週間以内に追貼するように命じ、この命令書は昭和二十九年十二月十一日送達されたが、原告は追貼しない。

理由

本件訴が原告の主張するような、訴訟法に所謂非財産権上の訴であるかどうかについて考えてみる。

しかして、原告は本訴において二十六名の選定当事者として、兵庫県明美地方事務所長岡崎元次が、右二十六名に対して課した昭和二十七年度事業税の賦課処分並にこれに対する再調査請求の棄却処分が無効であると主張し、その確認を求めているのであるが、かゝる訴訟の目的たる租税に関する行政処分は、固よりその内容に於て金銭上の裏付けを有し、原告の主張する如く、経済的価値を拾象したものではあり得ない。つまり、右請求が認容される時、二十六名は夫々賦課された前記事業税の納付を免れ、以て経済的利益を享有するわけである。してみれば、本件訴訟の目的は財産上のものに他ならず、これを訴訟物とする本件訴は、訴訟法に所謂財産権上の訴として取扱はれるべきは当然であり、従つて、これを非財産権上の訴訟として、民事訴訟用印紙法第三条第一項に従い、訴価を金三万一千円と看做すことは正当でない。

本件訴訟が財産権上の訴であるとすると、次にその訴価が問題になる。ところで、本件訴については、二十六名が、かような行政訴訟に於ても訴の主観的併合(共同訴訟)、延いて選定当事者制度が利用できると云う前提の下に、その請求を併合し、原告を選定当事者として訴を提起しているのであるから、かゝる前提を執る以上、その訴価は、民事訴訟法第二十三条第一項に則り、各請求、すなわち二十六名各自の主張する経済的利益の合算額と云うべきである。そして、本件訴は、被告の認定賦課した金額が仮に正当であるにせよ、兎に角手続に瑕疵があるとして前叙のような無効確認を求め、結局、被告の認定賦課した右税金額の納付を免れる一方、夫々の申告した金額の納付をすると云うのでもないから、右二十六名の主張する各経済的利益は、具体的に、前記の各事業税金額そのものに他ならない。しからば、本件訴の訴価は、右事業税金額の合算額であり、そして、当裁判所が職権により求めた美嚢地方事務所長の回答によれば、その合算額は金四十八万五千六百十円であることが認められるから、本件訴価は、まさに右金額と云わねばならない。

よつて、右訴価に基いて原告に対し、相当印紙の追貼を命じたところ、原告はこれに応じないので、本件の訴は不適法にして、その欠缺が補正し得ない場合であると認めてこれを却下することゝし、訴訟費用の負担については、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 石井末一 朝田孝 中田四郎)

(別紙省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例